
コンプレックス”と”劣等感”って違うものなの?



今回は”コンプレックス”と”劣等感”の違いについて解説します
僕たちは日ごろから会話のなかで、「体形にコンプレックスがあって」「学歴コンプがすごい」「同期に劣等感を覚えて」などの表現を用いています。その際に、「コンプレックス」と「劣等感」を意識して使い分けている方は少ないのではないでしょうか。
実際のところ、この二つの言葉は違う意味を持っています。同じ意味として使うのも、厳密には間違いとされているのです(僕も前はまったく違いを意識していませんでした)。
実は、こんにちの日本ではコンプレックスという言葉は本来の意味から若干の違いが生じており、誤用が定着しています。
この記事では、ユングやアドラーといった心理学者による概念に触れつつ、二つの言葉の違いについて解説します。
この記事を読み終えたら、本来の意味を理解することができます。
それを踏まえた上で、あえてこのブログでは誤用表現を使っていきます。その理由についても説明します。
“コンプレックス”と”劣等感”の違い


先に、理解のしやすい”劣等感”から見ていきましょう。
数冊の辞書に当たると、下記のようにまとめられます。
”劣等感”とは 自分が他人より劣っているという感情。 また、そこから生じる不安感や無力感、嫉妬、羨望などのこと
こちらは分かりやすいですね。自分と他人を比較して生じる、負の感情全般です。
(ちなみに、事実とは関係なく抱くものである、という説もありますが、個人的にはその捉え方には違和感を覚えています)
それでは続いて”コンプレックス”を見ていきましょう。
深層心理学に関する10冊以上の書籍を参照したところ、おおよそ下記のような意味にまとめられます。
”コンプレックス”とは 怒り・悲しみといった情動や欲求、記憶などが 心の中で無意識に複雑に絡まり合ったものの総体のこと。 「心的複合体」とも訳される。
抽象的な概念ですので、少し難しい言い回しになってしまいました。
理解を助けるために、言葉の成り立ちから見てみましょう。
もともと英語の[complex]という単語は、このような意味を持っています。
【形容詞】
複雑な、複合の、込み入った、手間のかかる
【名刺】
複合体、合成物、複合[総合]施設、総合ビル、コンビナート
これが語源です。キーワードは、「複雑」「複合」ですね。
要は、心の中で色んな要素が複雑に絡まった状態ですよ~ということですね。
「あれがしたい」「これはイヤ」「あんなことがあったなあ」これらが心の中でミックスになった状態、そのもののこと。
必ずしも、「他人に引け目を感じるなあ」とか「苦手意識あるなあ」という状態だけを指す言葉ではないのですね。
この言葉を最初に心理学で用いたのは、オーストリアの心理学者ブロイアー、広めたのはかの有名なユングと言われています。



私が広めたんだよ
フロイト、ユングなど学派によって提唱する”コンプレックス”の内容もさまざまあります。
「エディプス・コンプレックス」などは時々耳にすることがありますね。これはフロイトの理論です。



私の考える”コンプレックス”は、性的な抑圧や葛藤、フェチズムとも結びつく
ここから派生したのがマザーコンプレックスとかシスターコンプレックスなどだよ
いっぽう、ユングによればコンプレックスは「感情で色付けされた心的複合体」とのこと。



フロイトさんには最初はお世話になってたけど、
どうも考えが違うから別れちゃったわ
いずれにせよ、必ずしもネガティブなことだけを指す概念ではありませんでした。
それではなぜ、日本では”コンプレックス”が”劣等感”の同義語として用いられるようになったのでしょうか。
日本で誤用表現が広まったのはなぜ?





日本では私の「エディプス・コンプレックス」などの精神分析理論が最初に入ってきたよ
1933年には、矢部八重吉や大槻憲二ら精神分析学者が「フロイト精神分析学全集」を翻訳出版していました。
しかし、夢や性欲などに関する研究は行われたものの、フロイト学派による”コンプレックス”の概念は当時の日本人の肌感に今ひとつ馴染めず、広がりをみせませんでした。
当時の日本ではまだ封建的な価値観が強く、“父が家庭で一番偉い存在”とされているのが一般的でした。それに対し、エディプス・コンプレックスは「男の子は異性である母を慕い、同性である父を憎む」といった観念なので、受け入れがたかったのではないかとも言われます。
その後、戦後にアメリカから持ち込まれたのが、アルフレッド・アドラーの「人格心理学」です。
そのなかで触れられる「劣等コンプレックス(inferiority complex)の克服を通じて人格の発達を目指す」といった理論が日本には広く受け入れられた、とされています。
アドラーは近年でもビジネス書などに広く取り上げられる有名な心理学者ですね。
なお、アドラーの提唱した理論の中には、”劣等コンプレックス”だけでなく”優越コンプレックス”といったものもあります。



“優越コンプレックス”は異常なほど人より優れたいという思い、
“劣等コンプレックス”は異常なほどの劣等感のことだよ
どちらも、一人の人間のなかに共存することがあるよ


しかし、その後は”劣等コンプレックス”だけが独り歩きして、やがて”コンプレックス”自体が”劣等感”と混同されて用いられるようになったというわけですね。
当ブログで誤用表現を敢えて用いる理由



じゃあ、このブログ名も間違いじゃないの



はい。厳密に言うとそのとおりなんです!
このブログ「コンプレックス・ジャム」の”コンプレックス”は通俗的な表現です。
しかし、敢えて誤用のままでいきたいと思っています。
学術的な正しさを追い求めるなら、当ブログでも”コンプレックス”や”コンプ”などと言わずに”劣等コンプレックス”と表記すべきなのです。しかし、例えば「学歴コンプについて」と語ろうとした際、「学歴劣等コンプレックスについて」と言い換えたらどうでしょうか。
もともと表現しようとしていたニュアンスが損なわれてしまう恐れがあります。
ここはあくまでも個人ブログなので、ぼくが体験したり思ったことに基づいて、同じ悩みを持っている方に向けてささやかに語りたいと思っています。
僕らの日常会話の延長としてあえて誤用上等で臨みたいので、隣の席の会話と笑って見逃していただければ幸いです。
まとめ
以上、”コンプレックス”と”劣等感”の違いについて解説してきました
ざっくりとおさらいです
- “コンプレックス”と”劣等感”は本来違う意味を持つ
- “コンプレックス”は無意識下の複雑な心の有り様を指したもの
- “劣等感”は他人と比較して生じる負の感情
- “劣等コンプレックス”が日本における”劣等感”とほぼ同義
- 言葉が独り歩きして日本では誤用されている
- ブログでは日常言葉のニュアンスを重視する観点から敢えて誤用上等とする。ユングさん、アドラーさん、学者さんすみません
今回解説した内容は”コンプレックス”と”劣等感”の本来の意味と誤用についてでしたが、参考になりましたでしょうか
より詳しい内容を知りたい方は、深層心理学の入門書などを調べてみてください
明日もあなたにとって良い日になりますように!
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